基礎理論(離散数学・応用数学・情報理論・通信理論・計測制御)
テクノロジ系 / 基礎理論
この単元の範囲
基本情報技術者試験のシラバスは、大分類1「基礎理論」の中分類1をそのまま「基礎理論」と名付けており、コンピュータサイエンスの土台となる数学・情報理論・通信理論・制御理論を横断的に扱う。小分類は「離散数学」「応用数学」「情報に関する理論」「通信に関する理論」「計測・制御に関する理論」の5つで、いずれも暗記だけでなく「なぜその仕組みが必要か」を具体例とセットで理解することが得点力につながる。
1. 離散数学
コンピュータは内部で2進数しか扱えないため、10進数・8進数・16進数との基数変換がまず土台になる。たとえば10進数の13は2進数で1101、16進数でDと表現できる。小数を扱う際は、小数点位置を固定した固定小数点数と、仮数部・指数部に分けて広い範囲を表す単精度/倍精度浮動小数点数がある。演算では、絶対値が大きく異なる2数を加減算した際に小さい方の下位桁が結果に反映されなくなる情報落ち、絶対値がほぼ等しい2数を減算した際に有効桁数が大幅に失われる桁落ち、表現範囲を超えるオーバーフローに注意が必要である。論理演算では、AND(論理積)・OR(論理和)・NOT(否定)・XOR(排他的論理和)の真理値表を書けることが、後述の論理回路やプログラムの条件式理解の基礎になる。集合(和集合・積集合・補集合)と命題論理(真・偽の判定)も同じ枠組みで問われる。
2. 応用数学
「確率と統計」は最も出題範囲が広い。条件付き確率やベイズの定理は迷惑メール判定のようなAI応用の理論的裏付けであり、平均・中央値・標準偏差・分散はデータのばらつきを、相関係数・回帰分析は2変数の関係を要約する道具である。A/Bテストで「新旧デザインのクリック率に差があるか」を判断する仮説検定(帰無仮説・有意水準・p値)も頻出テーマである。ほかに、連立方程式やCGの座標変換で使う行列・ベクトル、方程式の近似解を反復計算で求めるニュートン法、コンビニのレジ待ち時間を数式で分析する待ち行列理論、経路探索などを効率化する動的計画法(最適化問題)が並ぶ。
3. 情報に関する理論
情報を効率よく・誤りなく伝える理論群である。頻度の高い記号に短い符号を割り当てて圧縮するハフマン符号(符号理論)、日本語をコンピュータで扱うためのシフトJIS・Unicodeなどの文字コード体系、四則演算を「3 4 +」のように後置で書く逆ポーランド表記法(形式言語、スタックで機械的に計算できる)、有限個の状態遷移で処理を表すオートマトン、アルゴリズムの効率を入力サイズに対する処理時間の増え方で評価する計算量が代表例である。近年のシラバス改訂で厚みが増したのがAIに関する技術で、①エキスパートシステムなど「AIの基本的な考え方」、②教師あり学習・決定木・過学習と交差検証などの「機械学習」、③ニューラルネットワークとバックプロパゲーションによる「ディープラーニング」、④CNN・RNN・LLM・プロンプトエンジニアリングなど「自然言語処理等への応用」の4段階で体系化されている。ほかに、プログラムを機械語へ翻訳するコンパイラ理論、手続型・関数型・オブジェクト指向などのプログラム言語論も含む。
4. 通信に関する理論
小分類は「伝送理論」1本だが、内容は5系統に分かれる。データが一方向にしか流れない単方向、送受信を交互に行う半二重、同時に行える全二重という伝送路の区分、デジタル信号をアナログの搬送波に載せるAM(振幅変調)・FM(周波数変調)・PM(位相変調)やアナログ信号をデジタル化するPCM(パルス符号変調)の変復調方式、1本の回線を周波数で分けるFDM・時間で分けるTDMの多重化方式、伝送誤りを検知するパリティチェック・CRCや誤りを自動訂正するハミング符号、送受信のタイミングを合わせる調歩同期・フレーム同期などの信号同期方式が該当する。モデムがデジタルデータを電話回線用のアナログ音に変換するのはAM/FM/PMの応用例である。
5. 計測・制御に関する理論
IoT機器の設計に直結する分野である。温度センサーが拾ったアナログ電圧をA/D変換でデジタル値に変換し、ノイズ成分を取り除くフィルタリングを経て制御プログラムに渡し、モーターを動かす際はD/A変換でアナログ信号に戻す、という一連の流れが「信号処理」にあたる。制御理論では、出力を監視せず一方的に指令を送るオープンループ制御(フィードバックなし)と、センサーで結果を測定しながら補正するフィードバック制御を対比して理解するとよい。加速度センサー・ジャイロセンサー・超音波センサーなどのセンサーと、モーター・油圧シリンダなどのアクチュエーターが、実世界とコンピュータをつなぐ入出力デバイスとして併記されている。
---
参考文献
- IPA「基本情報技術者試験シラバス Ver.9.2」大分類1「基礎理論」中分類1「基礎理論」(PDF内表示ページ -2-〜-6-、目次上もp.2起点): https://www.ipa.go.jp/shiken/syllabus/omgdg50000005kpe-att/syllabus_fe_ver9_2.pdf
- IPA シラバス一覧・改訂概要ページ: https://www.ipa.go.jp/shiken/syllabus/gaiyou.html
本資料は IPA(独立行政法人 情報処理推進機構)が公表する「基本情報技術者試験シラバス Ver.9.2」(大分類1「基礎理論」中分類1「基礎理論」、シラバスPDF内表示ページ -2-〜-6-)に基づく自作の解説テキストである。
- シラバス本文の小分類・細目・用語例を参照しつつ、解説文・具体例は本資料著者(nomuraya-dojo)の独自作成である
- 末尾の「オリジナル演習問題」は IPA 過去問を模倣・転記せず、本資料著者が独自に作成したものである
- シラバスそのものの著作権は IPA に帰属する。原文は IPA公式シラバスPDF を参照すること
- 本資料の利用にあたっては、IPAのウェブサイトのご利用について(著作権・利用規約)に従うこと
考えてみよう
既定では正解・不正解の判定はしません。自分のペースで「答えを見る」を。採点してほしい場合だけ「採点してほしい」を押してください。
問1
10進数の27を2進数で表現したものはどれか。
ア 10111
イ 11011
ウ 11101
エ 11001
解答:イ
解説: 27を2で割っていくと、27=16+8+2+1=2^4+2^3+2^1+2^0であるから、2進数では11011となる。基数変換は「2の累乗の和に分解する」方法と「2で割って余りを下から並べる」方法のどちらでも解ける。
問2
浮動小数点数の演算において、絶対値が大きく異なる2つの数を加算した結果、小さい方の数の下位桁が結果に反映されなくなる現象を何と呼ぶか。
ア オーバーフロー
イ アンダーフロー
ウ 情報落ち
エ 桁落ち
解答:ウ
解説: 有効桁数の制約により、絶対値の小さい数の情報が演算結果に反映されなくなる現象を情報落ちと呼ぶ。桁落ちは絶対値がほぼ等しい2数の減算で有効桁が大幅に失われる現象、オーバーフローは表現可能な範囲を超えること、アンダーフローは0に近づきすぎて表現できなくなることを指し、いずれも区別して覚える必要がある。
問3
逆ポーランド表記法(後置記法)で「3 4 5 + \*」と書かれた式の計算結果はどれか。
ア 17
イ 27
ウ 35
エ 60
解答:イ
解説: 逆ポーランド表記はスタックを使い、演算子が出てきた時点で直前2つの値を取り出して計算する。「3 4 5 + \*」は、まず4と5を足して9、次に3と9を掛けて27となる。逆ポーランド表記は括弧なしで演算の優先順位を一意に表せるため、コンパイラの中間表現やスタック型計算機で利用される。
問4
あるコンビニのレジについて、待ち行列理論の観点から「客の平均到着率」と「レジの平均サービス率」の関係を説明したものとして、最も適切なものはどれか。
ア 平均到着率が平均サービス率を上回り続けると、待ち行列は際限なく長くなる傾向がある
イ 平均到着率と平均サービス率は常に無関係であり、待ち時間の予測には使えない
ウ 平均サービス率は客の人数によって変化するが、平均到着率は常に一定である
エ 待ち行列理論はハードウェアの信号処理にのみ適用され、業務システムには使えない
解答:ア
解説: 待ち行列理論では、単位時間あたりに到着する客数(平均到着率)が、単位時間あたりに処理できる客数(平均サービス率)を継続的に上回ると、行列は理論上無限に伸びていく。この考え方はコンビニのレジ待ちだけでなく、Webサーバへのリクエスト処理能力の見積もりなど、システム設計の容量計画にも応用される。
問5
A/D変換とD/A変換の組み合わせとして、温度センサーで取得した室温データをもとにエアコンのコンプレッサーを制御する仕組みの説明として最も適切なものはどれか。
ア センサーが検出したアナログの電圧値をD/A変換でデジタル化し、制御結果をA/D変換でモーターに伝える
イ センサーが検出したアナログの電圧値をA/D変換でデジタル化し、制御プログラムの出力をD/A変換でアクチュエーターに伝える
ウ A/D変換もD/A変換も、デジタル値同士を変換する処理であり、アナログ信号は関与しない
エ 温度センサーはデジタル値のみを出力するため、A/D変換もD/A変換も不要である
解答:イ
解説: 温度センサーが出力する電圧はアナログ信号であるため、コンピュータが処理できるようA/D変換(アナログ→デジタル)でデジタル値に変換する。制御プログラムが計算した指令値は、モーターなどのアクチュエーターを実際に動かすためD/A変換(デジタル→アナログ)でアナログ信号に戻される。この往復がセンサー・制御・アクチュエーターを結ぶ計測制御システムの基本構造である。