システム戦略(情報システム戦略・業務プロセス・ソリューションビジネス・システム活用促進評価)
ストラテジ系 / システム戦略
この単元の範囲
基本情報技術者試験のシラバスは、大分類7「システム戦略」の最初の中分類として「システム戦略」を置いている。ここでは、経営目標を実現するために情報システムをどう位置づけ、どう作り、どう定着させるかを扱う。具体的には、①経営とIT投資をつなぐ「情報システム戦略」の立て方、②業務のやり方そのものを見直す「業務プロセス」改善、③外部の専門家・サービスを活用する「ソリューションビジネス」、④作ったシステムを使いこなし評価する「システム活用促進・評価」の4つの小分類から構成される。テクノロジ系の知識が「どう作るか」を扱うのに対し、この単元は「何のために・どんな体制で作り、使ってもらうか」という経営とITの橋渡しを扱う点が特徴である。
1. 情報システム戦略
1-1 情報システム戦略の目的と策定手順
情報システム戦略とは、経営戦略・事業戦略を実現するために情報システムをどう構築・活用するかを定めた中長期的な方針である。策定にあたっては、対象となる業務のプロセスレベルでの理解から始まり、現状(As-is)と理想(To-be)のギャップを分析し、最終的に経営層の承認を得て戦略として確定するという段階を踏む。策定後は、その効果を測る「情報システム戦略評価」も欠かせない。
1-2 情報システム化基本計画と推進体制
戦略を具体化したものが情報システム化基本計画である。ここでは、IT投資が経営目標にきちんと結びついているかを統制する仕組み(ITガバナンス)、目指すべきシステム像であるTo-beモデル、情報セキュリティ方針、システム構築・運用の標準化方針・品質方針、これらを判定するシステム管理基準が定められる。推進の司令塔となるのが、情報技術の側面から経営を主導するCIO(最高情報責任者)と、デジタル変革を主導するCDO(最高デジタル責任者)であり、実務は情報システム戦略委員会や情報システム部門が担う。投資判断は情報システム投資方針やIT投資マネジメントに基づいて行われ、個別のシステムとしては、企業の基幹業務を統合管理するERP、サプライチェーンを最適化するSCM、顧客情報を一元管理するCRM、営業活動を支援するSFA、組織のノウハウを蓄積・共有するKMSなどが代表例として挙げられる。これらの検討では、業務全体を俯瞰する業務モデルや情報システムモデルを使って整理する。
1-3 エンタープライズアーキテクチャ(EA)
組織全体の業務とシステムを統一的な視点で整理する手法がEA(エンタープライズアーキテクチャ)である。代表的な考え方にザックマンフレームワークがあり、現状(As-isモデル)から理想像(To-beモデル)へと業務・システムを最適化していく。EAは4つの階層に分けて整理される。業務の流れを可視化するビジネスアーキテクチャ(業務説明書、DFD、業務流れ図など)、データの構造を整理するデータアーキテクチャ(E-R図など)、システム機能同士の関係を示すアプリケーションアーキテクチャ(サービス指向アーキテクチャ〈SOA〉など)、そしてハードウェア・ネットワークなどの基盤を示すテクノロジアーキテクチャである。例えば新しい基幹システムを導入する際、いきなり技術選定に入るのではなく、まず業務(ビジネス)とデータの整理から着手するのがEAの発想である。
1-4 プログラムマネジメント・フレームワーク・品質統制
複数のプロジェクトを束ねて経営目標の達成に導く活動をプログラムマネジメントと呼び、その推進組織がPMOである。ITガバナンスの成熟度を評価する国際的な枠組みとしてCOBIT、ITサービスマネジメントのベストプラクティス集であるITIL、ソフトウェア取引の共通言語であるSLCP-JCF(共通フレーム)があり、戦略の達成度はKGI(重要目標達成指標)やKPI(重要業績評価指標)でモニタリングされる。実行段階では、計画と実績の差異分析を行い、リスクへの対応を継続することが情報システム戦略実行マネジメントの要となる。
2. 業務プロセス
情報システムを導入する前提として、業務そのものの見直しが必要になる。業務の流れを見える化する「可視化」、手順をそろえる「標準化」、機械に任せる「自動化」が改善の基本方向である。抜本的に業務を再設計するBPR(業務プロセス再構築)、業務プロセスをシステムで管理・実行するBPMS、業務そのものを外部に委託するBPO(人件費の安い海外拠点に委託するオフショアを含む)、承認・申請の流れを電子化するワークフローシステム、営業活動を効率化するSFA、そして人手で行っていた定型作業をソフトウェアロボットに代行させるRPA(ロボティックプロセスオートメーション)が主な用語である。例えば紙の稟議書をワークフローシステムに置き換え、さらに承認後のデータ転記作業をRPAで自動化する、という組み合わせが典型的な改善パターンである。
3. ソリューションビジネス
ソリューションビジネスとは、顧客の経営課題を情報システムで解決する事業活動を指す。提供元はソリューションプロバイダと呼ばれ、業務システム提案、業務パッケージの提供、複数の要素を組み合わせて構築するシステムインテグレーションなどの形態がある。サービスの種類は近年特に多様化しており、ソフトウェアを提供するSaaS・開発基盤を提供するPaaS・インフラを提供するIaaSといったクラウドサービスが中心である。クラウドは提供形態によって、不特定多数が利用するパブリッククラウド、自社専用のプライベートクラウド、両者を組み合わせるハイブリッドクラウド、データの保管場所や管理主体を自国内に限定するソブリンクラウドにも分類される。クラウドを前提に設計されたシステムのあり方をクラウドネイティブ、新規システムは原則クラウドを優先して検討する方針をクラウドバイデフォルトと呼ぶ。ほかに、インターネット経由でアプリケーションを提供するASP、自社でシステムを保有する従来型のオンプレミス、サーバ機器を自社に置かず預けるハウジングサービス、機器ごと借りるホスティングサービス、業務全般を外部委託するアウトソーシングサービスなども区別して押さえておきたい。
4. システム活用促進・評価
システムは作って終わりではなく、使ってもらい、成果を評価し、最終的には適切に廃棄するまでが戦略の範囲である。私物端末を業務利用するBYOD(Bring Your Own Device)や、利用者対応を自動化するチャットボットの普及も、活用促進の一環として位置づけられる。利用者側には、ITを使いこなすITリテラシーや情報を正しく読み解くメディアリテラシー、セキュリティ意識といったデジタルリテラシーが求められ、これを高めるために利用者マニュアルや業務マニュアルの整備、e-ラーニング、講習会、人材育成計画、ゲームの要素を取り入れて学習意欲を高めるゲーミフィケーションといった普及啓発の施策が行われる。ITの利用機会や活用能力の格差はデジタルディバイドと呼ばれ、これを埋めることも普及啓発の目的の一つである。導入後は、ログ分析やログ監視、学習マネジメントシステムを用いて情報システム利用実態の評価・検証を行い、想定どおりに活用されているかを確認する。そして役目を終えたシステムは、システムライフサイクルに沿って情報セキュリティポリシーに基づきデータを消去するなど、適切な情報システム廃棄の手順を踏む必要がある。
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参考文献
- IPA「基本情報技術者試験シラバス Ver.9.2」大分類7「システム戦略」中分類17「システム戦略」(p.79-82): https://www.ipa.go.jp/shiken/syllabus/omgdg50000005kpe-att/syllabus_fe_ver9_2.pdf
本資料は IPA(独立行政法人 情報処理推進機構)が公表する「基本情報技術者試験シラバス Ver.9.2」(大分類7「システム戦略」中分類17「システム戦略」、p.79-82)に基づく自作の解説テキストである。
- シラバス本文の用語例・分類構成を参照しつつ、解説文・具体例は本資料著者(nomuraya-dojo)の独自作成である
- 末尾の「オリジナル演習問題」は IPA 過去問を模倣・転記せず、本資料著者が独自に作成したものである
- シラバスそのものの著作権は IPA に帰属する。原文は IPA公式シラバスPDF を参照すること
- 本資料の利用にあたっては、IPAの著作権・利用規約に従うこと
考えてみよう
既定では正解・不正解の判定はしません。自分のペースで「答えを見る」を。採点してほしい場合だけ「採点してほしい」を押してください。
情報システム戦略の策定において、経営戦略・事業戦略と情報システムを結びつけ、企業全体の業務とシステムの構造を「ビジネス」「データ」「アプリケーション」「テクノロジ」の4つの階層で統一的に整理する手法はどれか。
ア BPR
イ エンタープライズアーキテクチャ(EA)
ウ RPA
エ BPO
解答:イ
解説: エンタープライズアーキテクチャ(EA)は、組織全体の業務とシステムをビジネスアーキテクチャ・データアーキテクチャ・アプリケーションアーキテクチャ・テクノロジアーキテクチャの4階層に分けて整理し、現状(As-is)から理想像(To-be)への最適化を図る手法である。BPRは業務プロセスの抜本的再構築、RPAは定型作業の自動化、BPOは業務の外部委託を指し、いずれも4階層による全体整理の手法ではない。
情報技術の側面から経営戦略の立案・実行を主導し、情報システム戦略遂行のための組織体制の中心的役割を担う経営層の役職はどれか。
ア CFO(最高財務責任者)
イ CIO(最高情報責任者)
ウ COO(最高執行責任者)
エ CEO(最高経営責任者)
解答:イ
解説: CIO(Chief Information Officer:最高情報責任者)は、情報技術を活用して経営戦略を実現する立場から、情報システム戦略の立案・遂行を主導する役職である。デジタル変革を主導するCDO(最高デジタル責任者)とあわせて、情報システム戦略遂行のための組織体制の中心を担う。CFOは財務、COOは業務執行全般、CEOは経営全体の最終責任者であり、いずれも情報システム戦略に特化した役職ではない。
紙の申請書による承認プロセスを電子化してワークフローシステムに置き換えたうえで、承認後に発生していた人手によるデータ入力作業をソフトウェアロボットに代行させ、作業時間を大幅に削減した。この一連の取り組みのうち、後段の「データ入力作業の自動化」に該当する用語として最も適切なものはどれか。
ア BPMS
イ RPA
ウ BPO
エ オフショア
解答:イ
解説: RPA(Robotic Process Automation)は、人間がPC上で行っていた定型的なデータ入力・転記作業などをソフトウェアロボットに代行させる技術である。BPMSは業務プロセス自体をシステムで管理・実行する仕組み、BPOは業務そのものを外部の事業者に委託すること、オフショアはBPOのうち人件費の安い海外拠点に委託する形態を指し、いずれも「自社内でロボットが定型作業を代行する」仕組みそのものではない。
クラウドサービスの分類のうち、特定の企業や組織が専用で利用する環境として構築され、セキュリティ要件が厳しい業務にも対応しやすいものはどれか。
ア パブリッククラウド
イ プライベートクラウド
ウ ハイブリッドクラウド
エ オンプレミス
解答:イ
解説: プライベートクラウドは、特定の企業・組織が専用で利用するクラウド環境であり、不特定多数の利用者が共有するパブリッククラウドに比べてセキュリティ要件の厳しい業務にも対応しやすい。ハイブリッドクラウドはパブリッククラウドとプライベートクラウドを組み合わせて利用する形態であり、オンプレミスはクラウドを利用せず自社でサーバなどの設備を保有・運用する従来型の形態を指すため、いずれも設問の説明には該当しない。
新しい業務システムを全社導入した後、利用部門でシステムが十分に活用されているかを確認するために、ログ分析やログ監視を通じて利用実態を把握し、必要に応じて追加の講習会や業務マニュアルの整備を行った。この一連の活動が主に該当する小分類はどれか。
ア 情報システム戦略
イ 業務プロセス
ウ ソリューションビジネス
エ システム活用促進・評価
解答:エ
解説: 導入したシステムの利用実態をログ分析・ログ監視で評価・検証し、その結果に基づいて講習会や利用者マニュアルなどの普及啓発施策を行う活動は「システム活用促進・評価」に該当する。情報システム戦略はシステム導入前の方針策定、業務プロセスは業務の流れそのものの改善、ソリューションビジネスは外部事業者による課題解決サービスの提供を指すため、いずれも本問の「導入後の活用状況の把握と定着支援」を直接表す小分類ではない。